しつこいオトコ 同期(04/10/01)


 その男と初めて会ったのは、入社式の時だった。名簿の関係で、席が近かったためだ。でも、良く考えると、同じ会社に就職したという事は、面接の時から、採用試験の時から、説明会の時から、その男は私の近くにいたのかも知れない。

 私の名前は、福元優子。入社3年目で、機会があれば寿退社を常に考えているOL。会社というのも、どこにでもある商社で、一流というわけではないが、決して三流でもない。株価をみると二流の真ん中下の方ぐらいで、その株価も大きく変動しない。良く言えば「安定」で、悪く言えば「停滞」。そんな企業だ。面接の時の志望理由は、「御社の将来性」という当たりさわりのない嘘を言ったが、どうやら本当に嘘だったようだ。
 仕事は、特別面白いと思ったことも、つまらないと思ったこともない。だから、辞める理由もなく、毎日のように仕事をこなしている。入社する前は、OLと言えば、「お茶汲み」と「コピー」だけすれば良いと思っていた。けれど、入ってみると、書類の作成・チェック、事務作業等々と任せれる仕事は結構ある。名前の知れた大学ではないけれど、一応の学歴と若さ、主にパソコンを触れるというだけで、重宝される。年中簾を持ち歩いている人達は、このご時世でも、パソコンに一定の苦手意識を持っている。
 しかし、重要なのは作業を行うことよりも、経験や知識に基づいて、決定を行える力であり、それは、大学、主に四年生になって、感じたこと同じだった。通う場所が変わったことと、給料が貰えるという所が違うだけで、大学時代とあまり変わらない。最近、そう思うようになった。

 「恋がしたい。」

 同じフロアで働く、私も含めて女子連中が集まると誰かしらそういうことを言い出す。他に決まって言われることは

 「早く仕事辞めたいなあ。」

 なんてことはない若い女なら誰しも言うことだろう。私も良く言う。
 しかし、就職活動をしている頃は、多くの時間とお金をかけて、それそこ、全国を飛び回っていたのに、決まってしまえば、こんなもので、私の知る女子社員は私も含めて、こんなことばかりを話している。それは、それだけこの会社がつまらないということで、ほとんどの女子社員は30を待たずして寿退社の流れの中にいる。会社もそれを望んでいるようだし、当の本人達もそれを望んでいる。大学の時、ほとんど授業を聞かないが、「社会学」の中の「女性問題」の項だけは熱心に聴いていた友人たちは元気に働いているだろうか?今も、「男女雇用機会均等法」の存在を覚えているだろうか?

 金曜日の仕事が終ると、決まって同期の友人たちと飲みに行く。入社した当時は、上司も気を遣って誘ったものだが、半年も立たないうちに無駄な努力はしなくなった。私達は、多分、お酒が好きではない。同じ世代で集まるのが楽しいのだ。だから、飲みに行くといっても食事中心で、そんなに金額を使わない。カラオケであること確立も高い。だから、気を遣って上司におごって貰う必要もないわけだ。最近は、上司も「若者は沢山酒を飲む。」というのは、常識でなくなったことに気付きだしたのかも知れない。
 そういった飲み会は、ほぼ毎週、少なくても隔週で行われた。やることは、決まって、会社や自分への愚痴や、会社でも言っている「恋」や「退社」の話になる。結局、会社で話していることの繰り返しになることが、多いのだが、会社と上司の監視下から離れて、集まることに安心感がある。この安心感は私が会社を出るときまで、必要なものなのだろう。

 しかし、最近、そういったものにも変化が起き出した。単純に飲み会の規模が大きくなって来ている。というのも、飲み会を主催する「恋をしたい」同僚が、少し、やる気になったみたいで、積極的に違う部署の社員を誘い出したのである。彼女に言わしてみれば

 「合コンだと、セッティングとかに手間がかかるけど、同じ会社なら、誘うだけだし、フロアが違えば別の会社にいるようなものだから、調度良いと思う。」

 ということらしい。社内で積極的に出会いを求めだした訳だ。
 私は、あまり、この会社の男には期待してなくて、結婚するなら、少なくとも、うちより大きくて、全く別の分野で働いている男性としたいと思っていたが、その流れに逆らう理由もないので、今まで通りに、飲み会に参加していた。別に自分から求める訳でなく、話しかけられたら答える。そんな感じに。

 そんな飲み会も数を重ねて、そろそろ指では数えられなくなった時に、一人の男が私に声をかけて来た。

 「あ、僕のこと覚えてるかな?入社式の時、隣同士だったと思うけど。」

 当然私は、その男のことなど覚えてなかった。

続く?

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