「別れたい。」
私は、その日、男に告げた。男の方は、やはり、ショックだったようだ。言葉を出すまでに長い間があった。もっとも、本人は私が感じているよりも、もっと長い時間を感じていただろう。
「どうして?」
聞き返してきた言葉は、意外に、空いた時間の割には普通だった。いや、そういうものなのだろう。その言葉の後は、私が何故そう思ったかについて話すことになった。まだ、結婚のことは考えられないことや、その男とは合わないと感じたこと、相手をなるべく傷つかないように注意を払いながら。そう、別れたとしても、男は同じ会社にいるのだ。濁さないのが、お互いのためだと考えたからだ。
男は、簡単には引き下がらなかった。自分に謝らなければならない所があれば謝る。残念ながら謝る所は、特にない。ただ言えるのは、付き合いだした頃の温度差ではないだろうか?私は、男が私に向けている気持ちに見合う思いを、男に向けることは出来なかった。
男は、それでも構わないと言ったが、それが苦痛でなくても、痛みになることはある。何故、この男は私のことを思ってくれるのだろう?本人に聞いてみたが、本人も分からないと言う。恥ずかしそうに、人を好きになるのはそんなものだ、と言ったこともあった。しかし、それは、この年齢を考えると本当に恥ずかしいことだと思った。
最後には、男は私の申し出を受けたが、最後にこう言った。
「愛している。」
私は、一言、
「ありがとう。」
そう答えた。
それから男は、週末に行われる飲み会には現れなくなった。私もほとぼりが冷めるまで出席しないと決めていたが、同僚から出席していないということを聞かされた。流石に、お互い気まずくなるので、男の方も遠慮しているのだろう。大人の付き合い方であると思う。
しばらくして、前と同じように飲み会に顔を出すようになった。ほとぼりが冷めたと思ったこともあるし、同僚からの要望でもあった。以前と同じように、会社や上司への愚痴や恋の話題をする。あの男と付き合う前と全てが同じだった。いや、私が参加していない間に、成立したカップルが何組かあるようだった。同僚の狙いは、概ね達成されてるようだ。
続く?
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