禁断症 第2話「アクセス」 (04/06/25)


 その女の子はごくごく普通に、グループのリーダー格と言うわけでもなく。また、仲間外れにされている風でもなく、本当に、他の小学生と同じ様に、楽しそうに話していた。「楽しそうに学校に向かう友人達の輪から離れて、一人、寂しそうに歩いていた」、そんな「ベタ」な設定は、そうそう現実にはないのだろう。
 しかし、だとしたら、どうして、目が離せないのか?目が離せないほど引きつけられた理由がまるで分からない。俺は、そう言った嗜好の持ち主だったか?いや、そんなことはない。女というものとは違う。だとしたら、今、その意識が覚醒したのか?いつも、冷静な俺が、思考の迷宮に入り込む。そして、そんな思考の中でも、彼女の歩く速度に合わせて目が動いているのが分かる。落ち着つくために、 距離をとり、タバコを吸おうとした時、傍らを登校中の小学生が通る。小学生が通りすぎた後に、「さあ」と思った時、中年の女が自転車で通りすぎる。明らかに不信な顔をしている。俺は、思わず叫びそうになった。

 どれくらい思考の迷宮にいたのだろうか?落ち着いた頃には、通学・通勤の人間は姿を消していた。ようやく、タバコを吸う。美味いのか不味いのか分からない。だが頭の余分な神経を飛ばしてくれる。一時的に馬鹿になった頭が、少しずつ動き出す。引きつけられた理由が今にないなら、過去にあるんじゃないだろうか?例えば、初恋だ。家に帰っても寝る以外にすることはない。腹もまだ空いてない。タバコもまだある。仕事までは…9時間。
 俺は公園へ行き、ベンチで少し思い出すことをすることにした。

 初恋をしたのはいつだったろうか? 確か、小学生の3年か4年の時だ。俺にも初恋はあったのか。特に 珍しいことはなく、クラスで人気のある、可愛い女子だった。多分、可愛いから好きになった。他の学校がどうだったかは知らないが、 俺通った学校は男と女が話すことはカッコの良いことではなかった。日直や係りのことで、女の子と話しただけで、「女たらし!」囃し立てられたものだ。俺も、勿論、同じ事をやっていた。
 女たらしか…。でも、そういう風に言っていた奴に限って、中学にあがってからは、お洒落にエネルギーを使い、恋愛、というよりも女、性に夢中になるもの。俺は自分が男であると意識するようになってからは、奔放だった。こういう言い方もなんだが、エネルギーを使う必要がなかった。
 あの女の子は、初恋の子に似ているだろうか?顔、髪型、背丈…。正直、自分の記憶が曖昧なのと、あれぐらいの年齢は皆同じに見える。似ているかもしれないし、似ていないかもしれない。しかし、それは結局は条件の範囲だ。
 ここまで、考えた時、俺に一つの疑問が沸いた。

 「俺は恋愛をしたことがあるのだろうか?」

 結局、答えは出ないまま、家に帰り、簡単に腹を膨らまし、寝て、仕事に出かけることにした。考えているうちに問題が摩り替わってしまった。そもそも、自分が初恋だと思っていたのは、本当に…。いや、もう、やめておこう。多分、答えはでない。
 いつも通り出勤し、いつも通り仕事を終え、いつも通り女の家に行った。そして、いつも通りの朝を向かえ、いつも通り五千円札をテーブルの上に置き、いつも通り家路に着く。一ついつも通りではないことがあるとすれば、すでに昼を回っているということだ。
 女は会社が休みだった。結果が昼過ぎになるまで。こういう日はこっちの方が金が欲しくなる。肉体労働は得意ではない。女の方は何か勘違いしているのだろうか?俺の置いていく五千円の意味が分かっているのだろうか?最も、その意味を知られると、それはそれでまずいのだが。

 結局、いつもの公園にいた。いつもなら、昼を過ぎるくらいまでここにいて、家に帰って寝るという流れだが、今日はもう昼を過ぎている。このまま出勤しようか?いや、それはいくらなんでも身体に悪い。一応、客商売、シャワーも浴びないといけない。でも、歩くのも面倒だ。思考が余計に回って、なかなか答えに行きつかない。さらに性質の悪いことに、昨日見た女の子ことも思い出される。もう、家に帰ったのだろうか?まだ、学校だろうか?答えに行きつかない。やはり、不規則とは言え生活のリズムは大切だ。思考のリズムも少し狂っている。
 昨日見た女の子、彼女のことを考える。俺は彼女に恋をしているのだろうか?年齢こと等は昨日も散々考えたので、もう考えないことにして、漠然とそう考える。やはり、答えは出ない。
 少し頭を馬鹿にしようと思いタバコに手をやる。…ない。女の家に忘れたか?いや、ここに来るまでに、確か、吸ったはずだ。ならばどこかに落としたか?ポケットを探りながら、地面を見渡す。お世辞にも格好の良い姿ではない。ライターは見つからない。どこかに落としたのだろうか?そう思い、立ち上がろうとした瞬間、声がした。

 「探し物?」

 以外にも声をかけて来たのは彼女の方からだった。

続く? 

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